カジワラ テルコ   Kajiwara Teruko
  梶原 照子
   所属   明治大学  文学部
   職種   専任教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2022/04
形態種別 学術雑誌
査読 査読あり
招待論文 招待あり
標題 プラスとヒューズの「探求」――『エアリアル』にたどり着くまで
執筆形態 単著
掲載誌名 フォークナー
掲載区分国内
出版社・発行元 三修社
巻・号・頁 (24),52-69頁
総ページ数 18
担当区分 責任著者
著者・共著者 梶原照子
概要 本論は、夫婦としての、詩人としての「探求」によって、シルヴィア・プラスとテッド・ヒューズが二つの『エアリアル』にたどり着くまでの軌跡を追い、プラスの詩の「真実」を探ります。詩人としての創造力がお互いを惹きつけ、創造的協力関係にあった二人でしたが、1962年10月には結婚が破綻し、別居します。このときプラスは深い喪失感と激しい愛憎のなかで熱に浮かされたように詩作に取り組み、10月―11月にかけて28篇の詩を書き、これらの詩を中心に40篇の『エアリアル』詩集を編纂しました。プラスが自らの奥深い詩の<声>を響かせることに成功するのはこの『エアリアル』詩集の詩作品です。この時期より前の1961年2月の流産体験が数篇の先駆的な『エアリアル』詩篇の執筆を促したことを鑑みても、1962年10-11月の時期のプラスは、人生における深刻な喪失と荒れ狂う情動を詩の創造力に転換し、奥深い<声>を詩篇に響かせることで、傑作を生みだしました。プラスの個人的な感情経験を土台としているため、実体験に基づく激情を「告白」した、いわゆる「告白詩」を書いたと誤解されますが、プラスの晩年の詩の醍醐味は、「告白」する<声>を演出する技巧、生の情動のフィクショナルな描写にあります。例えば、 “Daddy”は軽妙な<声>による実体験からの遊離を行い、プラス自身の夫ヒューズや父との関係における苦悶も、ナチスドイツに迫害されたユダヤ人の苦難も、現実の軛から解放しようとします。表題詩 “Ariel”で描かれた自己の再生のドラマは、生々しい<声>によって、詩集全体で普遍化されています。ヒューズが編纂した『エアリアル』とプラスの原案を比較検討すると、ヒューズがプラスの実体験の告白を読み込んでいたのに対して、プラスは感情経験を普遍化して自己を飛翔させようとしていたことが分かります。二人の詩学の違いが二人の道を分けましたが、プラスがヒューズと出遭い、愛し、喪い、苦しんだ経験が『エアリアル』を生み出したとも言えるのです。