シモナガ ユウキ
Shimonaga Yuki
下永 裕基 所属 明治大学 農学部 職種 専任准教授 |
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言語種別 | 日本語 |
発行・発表の年月 | 2024/03 |
形態種別 | 学術雑誌 |
査読 | 査読あり |
標題 | 古英詩 The Wanderer にみるキリスト教詩人の役割認識について |
執筆形態 | 単著 |
掲載誌名 | Asterisk |
掲載区分 | 国内 |
出版社・発行元 | イギリス国学協会 |
巻・号・頁 | 32,1-15頁 |
概要 | 中世初期の教会がアングロ・サクソン人への布教上の工夫として、土着の文化的伝統を利用したことは知られているが、そのなかで口承文学の伝統も大いに活用された。ラテン語での記録が主流であった時代において、古英語でキリスト教的テーマの詩作品が多数残されたことはその証左である。
古英詩 The Wanderer はそのような作品の一つで、古英語のエレジー(哀歌)と呼ばれる伝統に分類される。しかしこの作品を聖書の詩編を中心とした賛歌や、教父文学の伝統と対照してみると、従来の評価とは異なり、必ずしも「喪失による悲しみ」が中心的テーマでないことが見えてくる。詩人は知者(wita, 65)や賢者(snottor, 111)のあるべき姿を歌うなかで、悲しみを口にするのではなく、悲しみに勝利する信仰的視野を歌うべきことを強調しているように読み取ることができる。難解とされてきた gesæt him sundor æt rune (111b) の解釈も、旧約聖書イザヤ38章のヒゼキヤ王の賛歌や詩編49などの比較を踏まえれば、信仰者として詩人が創作活動をする意味とともにその真意が理解されるようになる。 この論文では、悲しみをテーマとするエレジーに分類されるによって見えにくくされていた The Wanderer の宗教性を掘り下げることで、難解とされてきた詩行の解釈も可能になることを指摘する。それは同時に詩人が単なる作詩者ではなく、宗教文学の伝統に根差したうえでアングロ・サクソン人の感性をこめて信仰を歌おうとする高い職業意識があったことを示唆している。 |