ナイトウ アサオ   Naito Asao
  内藤 朝雄
   所属   明治大学  文学部
   職種   専任准教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2013/05
形態種別 新聞記事
標題 「悪口・仲間外れ 与野党案とも効果ない いじめ対策法案」
『朝日新聞』2013年5月29日(朝刊、第16面)
執筆形態 単著
掲載誌名 『朝日新聞』2013年5月29日(朝刊、第16面)
概要 学びを語る

悪口・仲間外れ 与野党案とも効果ない

いじめ対策法案

明大准教授(社会学)

内藤朝雄さん

いじめが社会問題化したのを受け、通常国会に与野党双方がそれぞれ法案を提出。6月26日までの会期内での成立を目指し、与野党の実務者協議が進んでいる。
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 いじめ問題について法律で対策を講じることには賛成だが、与野党の法案を見る限り、両者とも決定的なポイントがずれている。
 いじめは学校という閉鎖空間の中で密着した人間関係が強制され、一人ひとりが強く同調を求められる中で、どこまでも増殖する。外部の社会とは別の心理状態になり、独自の残酷な秩序に支配されてしまうのだ。与野党案とも閉鎖的な生活環境を改善する点を示しておらず、これは致命的な欠陥だ。
 与党案は全般的に「適切な措置を講ずる」といった抽象的な文面が並んでいたり、調査結果で何をするのか分からない調査の仕組みが延々と書かれていたり。野党案も無意味な調査部署や対策本部を大量に新設することで、税金の無駄遣いや天下り先、教育利権を生み出すことになりかねない。
 細かい点を見れば、教職員に警察への通報義務を課した野党案は、いじめを行為の種類で二つに分類したうちの一つ、殴る蹴るなどの「暴力犯罪刑」には力を発揮するだろう。与党案では通報基準が学校の判断に任されており、いじめの隠蔽につながる恐れが残る。いずれにせよ、両案とも悪口や仲間はずれのような「コミュニケーション操作系」のいじめには効果がない。
 法律でいじめの蔓延とエスカレートを抑止する対策としては、まずは「暴力犯罪系」に司法の力を導入すること。さらに「コミュニケーション操作系」を抑え込むために、狭い教室の中で毎日を同じ顔ぶれで過ごす今の学級制度を変えることこそが必要なのだと思う。(聞き手・志賀英樹)