オオグス エイゾウ
Ogusu Eizo
大楠 栄三 所属 明治大学 法学部 職種 専任教授 |
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言語種別 | 日本語 |
発行・発表の年月 | 2011/03 |
形態種別 | 大学・研究所紀要 |
標題 | 〈新しい女〉の語り―パルド=バサン『日射病』(1889)の始まり― |
執筆形態 | 単著 |
掲載誌名 | 明治大学教養論集 |
巻・号・頁 | (466),17-76頁 |
概要 | 本稿は,パルド=バサン(1851-1921)の第7作『日射病』Insolación(1889)の「始まり」の新しさ――「書物」としての始まりの新しさ(タイトル,サブタイトル「愛の物語」,序文の不在・脱稿時期の未記載,献辞「ラサロ・ガルディアーノへ 友情の証しとして 作者」)と「テクスト」としての新しさ(彼女の初期小説8作品中初めて,主人公が冒頭一行目から固有名で導入される)に着目し,その意義を探ったものである。 第一に,ジュラール・ジュネットの提唱する概念「パラテクスト」(=「ペリテクスト」+「エピテクスト」)を援用し,出版時,雑誌や新聞に掲載された書評や作家たちの交わした書簡(エピテクスト)を分析することによって,前述のペリテクストが当時の読者(作家仲間や一般男性読者)に働きかけた「読み」の指令(スキャンダラスな恋愛小説としての)を読み取った。第二に,ヒロインが冒頭一行目から固有名で導入されるという現象がもたらす効果について考察し,ヒロインを糾弾することによって男性性を顕在化さていく語り手の権威(命名行為)からの解放として読み取った。最後に,こういった始まりの新しさを,当時の男性読者が抱いたに違いない「読み」の打ち負かし――書き出しから〈ヒロインvs語り手〉という二項対立の構図を前景化させた後,ヒロインみずからの「告白」によって彼女のセクシュアリティがあからさまになり,結末で〈新しい女〉として幸せを獲得し,(男性的)語り手を打ち負かしてしまう――という,作家パルド=バサンが採ったフェミニズム的な語りの戦略として解釈するに至った。 |